青い春に、芽吹いた怪異。

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 淡々と、あるいは機械的に、宮野は音読するような調子でそう語った。 「それって……まさか」  俺はその意味することを察し、波立つ感情のせいで声が震えた。 「はい。夜になると、校庭の片隅にある『自由を駆ける』の銅像が叫びながら走るそうで……つまり、その、光希さんの銅像が走るらしい――という噂です」  校庭脇の桜の木の下にある銅像は、俺が沈黙を守ることと引き換えに建ててもらった銅像だ。光希をモデルにした少年が、空に向かって駆けていく様子が躍動的に表現されている。そして俺がここで働いているのは、この銅像とこの学園を見守ろうと決めたからだ。  学園のそこかしこで、俺は光希の痕跡を感じていた。生徒の群れの中に、沸き上がる歓声の中に、放課後の教室の片隅にあいつがいる気がして――いつか全部が嘘だったみたいに、ひょっこり顔を出すような気がして、また会えるような気がして……それだけを心の支えにして今日まで生きてきたのだ。だから、もし宮野の言っていることが本当なのなら――光希に、光希に会えるかもしれない。  オカルト話を肯定して可能性にすがるのは、許されないことだろうか? どんなに笑いものにされてもいい、俺はいい加減に救われたいのだ。この果てのない絶望から。     
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