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『イワトビ』とは、もちろんイワトビペンギンのことである。ジェンツーにとって、イワトビペンギンは憧れの対象なのだそうだ。落胆するジェンツーが気の毒になり、励まそうとしゃがみ込むと、すえたような臭いが鼻についた。
「……もしかして、お前プールで泳いでた?」
「うん。そうだけど?」
ジェンツーのヌルヌルの正体は、プールに生えた藻が絡まったせいだった。去年の夏から水を変えていないせいもあり、なんともいえない異臭を放っている。
「あんな藻だらけの中で泳いで、気持ち悪くないの?」
「え、別に? 気持ち悪くないよ。だって、僕ペンギンだもん。泳がない方が気持ち悪いよ」
人間の衛生観念は、ペンギンには通用しないらしい。普通に考えたら体に悪影響がありそうなものだが、そういった懸念を抱いたりはしないのだろう。
ジェンツーはペタペタと足踏みすると、ジャンプしようと腰を落とした。
「あ、おいおい! そのまま家に上がったらダメだって。ちゃんと藻を落としてからにしろよ。家ん中ヌルヌルになっちまうだろ」
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