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ジェンツーは不思議そうに俺の顔を見ると、ゆっくりと首を傾げた。多分、「ヌルヌルしていた方が動きやすいのに、なに言ってんの?」と 言いたいのだろう。そりゃペンギンは氷の上を歩くし、腹ばいになって移動することもあるから確かにその方が楽なのかもしれない。だけど、俺は人間だ。ペンギンに比べたら重心が高い。ヌルヌルの床なんて高確率で滑って転ぶに決まっている。
ジェンツーは人間の言葉が喋れるだけで、人間ではない。種が違うのだから、生活に関する感覚が違うのは当然だ。
だからこそお互いに変に気を使ったり、空気を読んだりする必要がない。探り合いの会話をしなくてすむ距離感はとても楽だった。そのおかげで、俺はこいつとうまくやっていけてるのだろう。
俺はジェンツーを花壇の前まで誘導して、シャワー代わりにホースから水を流す。
「ううーっ! 冷たくて気持ちいい!」
クルクルと回りながら水を浴び、ジェンツーは犬のように体を震わせて水気を飛ばした。
「やっぱりさぁ、日本の気候はペンギンには辛いよね。ハルもそう思うでしょ?」
居間で仕上げのタオル拭きを手伝っていると、ジェンツーは上目遣いで同意を求めた。
「だからといって、勝手に居候になるのはどうかと思うぞ」
ここ最近は気温も上昇してきている。夜になっても暑さが残る日は、こうして俺の家に泊まりに来るのがジェンツーのお決まりになっていた。
「え、だって、ハルの仕事は学校のお世話をすることだってマスが言ってたよ」
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