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マスというのは、学食で働いている沢木(さわき)益(ます)太郎(たろう)のことだ。あいつの料理を「美味い」と褒めなかったせいで、俺はなにかと絡まれている。
「そりゃ、確かにそうだけど」
「だから、僕のお世話もハルのお仕事でしょ? 大丈夫、そんなに迷惑かけるつもりはないよ。ただ、夏の間お風呂場を僕の部屋にしてくれるだけでいいんだ。『るーむしぇあ』ってやつだよ。お互いに干渉はしない。いいでしょ?」
大人ぶった表情で、ジェンツーは顎をくいっと上げる。
「それじゃぁ、俺が風呂に入れないじゃないか」
自分の意見が聞き入れてもらえないと分かると、ジェンツーはフフン! と鼻を鳴らして悪戯っぽい目で俺を見つめた。
「人間の世界では、僕に酷いことすると『どうぶつぎゃくたい』なんだって! ねぇねぇ、『どうぶつぎゃくたい』って悪いことなんでしょ? 怒られるんでしょ?」
「ちょっと待て、そんな言葉どこで覚えたんだ?」
ジェンツーが『動物虐待』なんて言葉を自分から知るわけがない。どこかで誰かが入れ知恵をしたはずだ。
「んとね、マスが言ってた」
「あいつ……余計なことばかり吹き込んで」
沢木のしたり顔を思い浮かべたら、無意識に拳を握りしめていた。あいつは本当にいらんことしかしない。いらんこと……いらんことと言えば――。
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