青い春に、芽吹いた怪異。

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 誰に迷惑がかかるわけでもないのだから、スケジュールを絶対順守する必要はない。だけど俺は臨機応変に生きるのが苦手だし、頑固で融通の利かない性格だ。それに今は雑草にとって成長しやすい季節でもある。後にすればするだけ自分の首を絞めるだけだろう。  余計なことを考えると、そのぶん疲労と不満は溜まっていく。俺はあれこれ考えるのは止めて、草を抜くことだけに意識を集中した。  三十分を過ぎた頃には、じんわりと額に汗が滲んできた。今日はじっとしていれば過ごしやすい爽やかな陽気だけれど、屋外で体を動かすにはいささか暑い。風通しの悪い作業着のせいで肌が蒸れ、ベタベタと不快な感触が皮膚にまとわりつく。今日はなにもかもが上手くいかないな。――まぁ、俺の人生なんて、なに一つ上手くいった試しなんてないんだけど。  黙々と動かしていた手を止め、日に日に濃くなる夏の空気を深く吸い込む。そして俺はうんざりするように大きなため息を漏らした。  ――ああ! もう止めだ、止め!  これ以上この作業を続けるのは危険だ。思考がどんどんと悪い方向へと向かって行く。この先に待ち構えているものの正体を、俺はもう嫌すぎるほど理解していた。  ネガティブな感情は、現在過去未来関係なくすべてを漆黒に染め上げる。そして、足首をつかんでは堂々巡りの底なし沼へと引きずり込むのだ。そうなってしまうと、もはや成す術はない。肺が押しつぶされるほど深みにハマっていくだけだ。     
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