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ジェンツーはここに来る前のことをあまり語りたがらないが、話を要約するに『研究所』と呼ばれる施設を恐れていて、この学園はその『研究所』から身を隠すためのシェルターの役割を果たしているらしい。人語を操るペンギンがいたら、研究したくなる気持ちは分からなくもない。だけど、俺はジェンツーが研究対象になるのは嫌だし、ドライな対応をするにはもう親しくなり過ぎている。
「研究されたりはしないと思うけど……でもまぁ、用心に超したことはないし、知らない人にはついていくなよ?」
「うん。僕、知らない人についていかないことにするよ。研究所に連れて行かれたくないからね」
「それがいい」
こう会話していると人懐っこく見えるジェンツーだが、意外としたたかに人間を観察している。学園内を自由にうろちょろしていても、迂闊に人前にはあらわれないし、近づいても大丈夫な相手かどうかをきちんと見極めているのだ。人間の言葉を話せると知っているのも、その存在を知る者の中でもごく一部に限られていた。
「ねぇ、ハル。ご飯まだ? 僕、もうお腹ペコペコだよ」
研究所の脅威が払拭されたからか、ジェンツーがのほほんとした顔で食事の催促をする。いつの頃からか、俺はこいつの飼育員代わりになっていた。
「そうだな、飯にしようか」
俺は夕飯の準備をしようと立ち上がる。ジェンツーもペタペタと音を立てて後を追いかけてきた。
「今夜はベーコンがいいな」
台所の前に立つ俺の背に向かい、ジェンツーは控え目な声で食事のリクエストをする。
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