青い春に、芽吹いた怪異。

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 周囲を憚ることなく仲間内で盛り上がれるのは、この年代だけに許された特権だと思う。そのうちに自分の立ち位置を理解して、否応にも空気を読まなければならなくなる時がくる。だから今は思う存分傲慢に生きていい。いや、傲慢であるべきなのだ。  そう考えながら、ふと俺が最後に大声を出した時を思い返してみた――が、まったくそれらしい記憶には辿り着けない。  それは俺が昔も思い出せないほどじじいになったからなのか、それとも、しみったれた人生のせいなのか。あるいは――まあ、考えたところで気に入る答えなど出るはずもない。  空高学園は、中高一貫ということもあり、中学からエスカレーター式に進学してくる生徒が多い。だから高校一年の春とはいっても、生徒たちはもう、それなりの人間関係を築いていた。  立ち眩みと大声でクラクラする頭を落ち着かせようと、俺はこめかみに手を添えて彼らへ視線を送る。  ここで働き始めてもうじき七年。  学校というのは、働いてみると実に不思議な場所だ。毎年三分の一の生徒が卒業し、そのぶん新しい生徒が入学してくる。それは新陳代謝のようでもあり、輪廻転生のようでもある。  その輪から外れて傍観に徹するのは、自分が透明人間になったみたいで心地よかった。 「小豆(あず)澤(さわ)さん、小豆澤さん! 小豆澤幸(ゆき)晴(はる)さん!」     
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