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不意に背後から名前を呼ばれ、俺は条件反射的に振り返った。――が、声の主を見た瞬間に、迂闊に振り返ったことを激しく後悔した。
大体、この学園で俺の名前を呼ぶ人間に碌な奴はいない。生徒にとってはなんの興味も湧かない用務員のおっさんだし、教職員にとって俺は学園の膿を具現化したような……そう文字通り腫物扱いの厄介者だ。積極的に親しくしようとする奴なんて、いるわけもない。一部の例外を除いては。
そんなこと分かりきっていたのに、うっかり反応してしまったのは、やはり脳の血流が悪いせいなのだろう。
「やっぱりここにいたんですね! 探しましたよー」
そう言って無邪気に微笑みかけるのは、例外の中でも俺が最も苦手としている高等部三年の宮野(みやの)唯子(ゆいこ)だ。小柄で童顔。全体的に色素の薄い彼女は、儚い雰囲気を漂わせている。キュルンと潤んだ瞳に見つめられたら、同世代の男子は一発で恋に落ちてしまうだろう。
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