第一章 水曜日、その香りに出逢う

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 黒を基調としたシックな店内を淡く照らすブルーのバックライト、静かに流れるピアノジャズが、今夜もすさんだ心を静める。 「マスター聞いてくださいよ」  カウンター席に腰かけるなり、(かおる)はいつもより沈んだ声を発した。その原因をすぐに把握した彼は、グラスに水を注ぐとそれを差し出す。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  すがるような気持ちでグラスを手にし、一息に飲み干す。冷たい水が、体内の不快感をなだめるように喉を流れた。 「大丈夫ですか、薫さん」 「大丈夫、と言いたいところですけど、今日も臭い人に出くわしてしまって……」 「そうですか。それは災難でしたね」
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