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「構わないわ」
飯田様と名乗られた女性は、女優を目指していらっしゃるそうです。
作業台に紙を広げて、デザインの相談から入りました。
まだ布もございませんので、無料で承ることにしました。
あれこれ注文を出されながら、飯田様は身の上話を始められます。
「事務所に入ったはいいけど、端役すら取るのは大変でさ。オーディションを受けては落ち、受けては落ち……毎日ユニットバスの小さなお風呂に膝抱えて入って、大声で泣いて、翌日にはまたニコニコして大人の前に立って、歌って喋って、疲れてお風呂に入って落ち込んで泣いて……んでさ、気持ちくらい大女優になりたいと思ったのよ。少し高い一人がけのソファー買ってさ。そこにローブ着て座って、大きなグラスをこう、揺らす訳よ」
右手を天井に向け、グラスでも持っているイメージでしょう、傾けてゆっくり一周します、
「ああ、中身はジュースね、お酒飲むと声潰れるから飲まないの。んでもさ、そんな時にパジャマじゃイマイチかっこつかないなと思ってさ。バスローブなんか買ってみた訳よ、ほら、なんかハリウッド女優みたいでカッコいいでしょ!?」
「はい」
私は微笑んで相槌を打ちました。
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