第一章 高校デビュー

2/39
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
 高校デビュー。  中学まで普通だったやつが高校生になって突然ヤンキーになること。  誰が見ても恥ずかしいこと。でもおれは中学二年のときから高校デビューすると決めていた。  おれには友達がいない。どうせボッチなら好き勝手やってやろうと思っていた。  だからといって、中学デビューはできない。おれのことを知ってるやつらばかりだから。おれが地味な日陰者なのは今に始まった話ではない。小学校、いやもっと前からそうだった。  知ってるやつが大勢いる中で突然ヤンキーぶったりしたら、おれが弱いことを知ってる連中にすぐに囲まれて袋叩きにされるだけだ。  だから、高校はうちから電車とバスを乗り継いで片道二時間近くかかる高校を選んだ。一応、その地域で一番の進学校。不良なんていそうもない、のどかな校風の学校。  誰でも入れる底辺校に入学して高校デビューなんてしたら、本当の不良たちが黙ってないからね。  そこまで計算しての満を持しての高校デビューのはずだった。でも、計算は高校デビュー初日から大きく狂わされたのだった。  悪魔のようなあいつ、如月菫のせいで――  入学式は普通に出て、普通に過ごした。何百人という保護者たちが楽しみにしている入学式をぶち壊しにしたいわけじゃない。ただ、自己満足のため。高校デビューは入学式翌日の始業式の日と決めていた。  入学式中はおとなしくしていただけで、何があったかまるで覚えてない。でも、一つだけ覚えてることがある。入学生挨拶というのがあって、入学生の代表が壇上で決意の言葉だかを述べているとき、おれの隣に座ってるやつが〈天使かよ〉ってつぶやいていた。確かにそう言っていた。目前に迫った高校デビューのことで頭がいっぱいで、おれは天使の顔も話の内容も確認するどころではなかったけれど。  担任は喜多美波という南北どっちに行きたいのかよく分からないような名前の女教師。教師二年目で今年初めて担任を持つと入学式の日、保護者たちの前で語っていた。  余計なことは言わず、教師なんてもう十年やってますという顔をしていた方が、聞いてる保護者も安心するし、これからのクラス経営もやりやすくなると思うが、教師の心配なんてしてる場合じゃない。待ちに待った高校デビューの瞬間を迎えたわけだから。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!