第二章 ゴスロリを着た悪魔

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 「ごめんね、菫! ごめんね!」  誰かがあたしに繰り返し謝る声が遠くから聞こえた。火の海から逃れたはずなのにまだ燃えさかる窯の中にいるみたいに熱い。救急車のサイレンの音。あたしを運ぶ人たちの激しい息づかい――  全身に大やけどを負いながらもあたしは一命を取り留めた。父は死に、半焼の屋敷も結局取り壊された。医者は最低半年の入院が必要だと言っていたが、あたしは三ヶ月で退院できた。ベッドの上でじっとしてるのが嫌だった。あたしは闘いたかった。死んだ父でもほかの誰かでもない。今まで闘えなかったあたし自身と闘いたかった。  あたしが退院する前に母は佐々木さんと交際を始めた。あたしは喜ばなかった。汚らわしいと思った。あたしを殺そうとした父の方がよっぽど純粋だと思った。  退院しても思うように体が動かない。もどかしくて何度も泣いた。あたしは一人で鍛錬した。あの人があたしに着せたがったゴスロリのドレスを着て用もなく街へ出かけては中学生くらいの男子にケンカを売って、たいてい勝った。自由に体が動くようになった頃、あたしは高校生にも負けなくなっていた。  今でも胸のあたりにはヤケドの跡がケロイド状に残っている。これは一生消えないだろうと医者に言われている。  誰に勝ったって何人に勝ったって、あたしの胸の傷は決して消えない。ともに死のうと思うほどあの人はあたしを愛していた。あの人をあたしは救えなかった。いや、そんなことより、  あの人を殺したのはあたしなんだ――
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