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ボロボロにされた若王子を見た次の日の昼休み、私は高畑を体育館裏に呼び出した。体育館の中から昼練をする男バスの部員たちの掛け声が聞こえる。いい天気なのに体育館に陽射しを遮られて、この辺りは全部日陰。ひとけはまったくない。
目の前に金髪にピアスの高畑。正直怖い。私は持てる限りの勇気を振り絞った。
「昨日、若王子先輩を半殺しにしたのはあなたなの?」
「本当にそうだとしても、そうだって答えるわけないだろ。ただでさえ教師はみんなおれを退学させたくてうずうずしてるのに」
「先生には言わない」
「どうだか。だって、委員長おれのこと嫌いじゃん」
高畑は私を〈委員長〉と呼ぶ。もちろん敬意を払ってくれてるわけじゃない。学校の犬だと決めつけているのだ。
「当たり前でしょ。あなたみたいに暴力を振るう人を私は許せない!」
「如月菫に何もしなければ、おれのことほっといてくれるんじゃなかったのか」
「あなたにはもう誰も傷つけてほしくない。菫はもちろん若王子先輩だってほかの人だって」
「そんな無茶な」
「どうしても誰かを傷つけたいときは私を傷つけなさい! 私だけを傷つけなさい。もう誰も傷つけないで!」
高畑は一瞬私の気迫にひるんだように見えたが、すぐ嫌な笑いを浮かべながら私との距離を詰める。逆に怯んだ私は後ずさり体育館の外壁まで追い詰められた。
背中が外壁にぴったり張り付いている。もうこれ以上下がれない。高畑は私の顔のすぐ横に勢いよく片手をついた。
「そう言えばおれが何もできないと思ったか」
「いや、あなたなら私を殴るだろうと思った」
「でもおれが委員長を殴ればおれはもうほかのやつを殴れない」
高畑はもう片方の手も外壁に押し当てた。私の顔の両横に狂暴な高畑の手がある。恐怖で胸が張り裂けそうになった。
「それ以前におれは今度こそ退学だ」
「だから先生には言わない。あなたがいくら私を傷つけても、私は絶対にあなたを傷つけない」
「信用できるか!」
目の前に高畑の顔がある。まっすぐににらみつけると、高畑は少し目をそらした。誰かに似ていると思ってすぐ思い当たった。さんざん暴れ回ったあとにわれに返った父のしぐさだ。
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