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「暴力はよくないってあなたも分かってるんでしょう?」
「正しいとは思ってない」
「それならやめるべきよ」
高畑はまだ目を合わせない。父と同じように高畑も高畑なりの闇を抱えている。だから不良になって一人でもがいてる。私なら彼を魂の牢獄からきっと救える。
目の前の彼の顔に両手を添えて私は高畑にキスをした。高畑の唇の感触を味わう余裕はない。唇同士が強く当たってるという事実そのものが私に勇気を与えた。
高畑を救いたいという私の決意の強さを知らせるために、それは一瞬で終わってはいけなかった。心の中で三十まで数えた。高畑はまったく無抵抗だった。
唇を離しても高畑は私と目を合わせようとしない。というか不良だからキスくらいいくらでもしたことあるくせに、視線が宙をさまよっている。私は猛烈に腹が立った。
「私は軽い気持ちで暴力をやめろと言ってるんじゃない。やめられないなら私を傷つければいいというのも本気だから」
高畑は私にキスされた唇を手で押さえて頬を真っ赤に染めている。これじゃ私が高畑を襲ったみたいじゃないか!
「不良のくせになんて顔してるの! 言っとくけど、私の方はファーストキスだったんだからね!」
「おれだってそうだ……」
高畑がようやく口を開いた。今にも消え入りそうな声だったけど。
「あなた不良でしょ。キスくらいというか、キス以外だってもういろいろ済ませてるんじゃないの?」
「おれは別にモテたくて不良になったわけじゃない」
「じゃあ、なんでなったの?」
高畑はまた無言になった。そのとき昼休み終了五分前の予鈴が鳴った。
「教室に戻るよ」
高畑の手を引いて走り出す。日陰から出るとき、高畑は私の手を振り払った。でも逃げずに最後までついてきた。振り返ると相変わらず目をそらされたけど。
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