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「なんでこの世の終わりみたいな顔になってんだよ」
「別に……」
「でも考えようによっちゃチャンスじゃねえか」
「なんの?」
「今ならやらせろって言ったら笙子はきっとやらしてくれるぜ」
「何を?」
「セックスに決まってんだろ。童貞を捨てるチャンスだぜ」
なんでもないことのようにケラケラ笑う。おれが笙子と結ばれることにこれっぽっちも嫉妬を感じていない。おれは自分の童貞を菫に捧げたいと思っていた。おまえみたいな恥ずかしい童貞をあたしが相手にすると思うかと笑われたような気がした。おれと違って本物の不良だった菫は当然ひととおり経験済みなのだ。あんたとあたしじゃ生きる世界が違ったといつか言われたが、おれと菫の生きる世界が同じになることなんてあるのだろうか?
おれは思いきり菫の顔面を殴った。虚を突かれて菫はまったく防御できなかった。一瞬何が起きたか分からないという顔になったあと、親の敵みたいにおれをにらみつける。
「何すんだよ!」
「そういうことでおまえに笑われたくない」
「そういうことってなんだよ? セックスのことか。笙子としたきゃすればいいだろ。関係ないあたしを殴るな。殺すぞ!」
「おまえに殺されるなら本望だ」
「じゃあ殺してやるよ」
菫は左手でおれの髪をつかみ右の腕を肩から大きく後ろに引いて、すでに腫れ上がったおれの顔面をさらに力任せに殴りつけようとする。でもおれは敵意に満ちた挑発的な菫の瞳から決して目をそらさない。その姿勢のままおれと菫は見つめ合った。たぶん笙子とキスしていたよりも長い時間。
「ふん。ちょっとは成長したじゃねえか」
不意に菫がおれの髪から手を放し、おれから目をそらした。勝ったと思った。菫にはじめて――
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