第四章 ズル休み日和

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 おれの剣幕に、今までさんざんおれを苛立たせた薄ら笑いが菫の表情からようやく消えた。  「悪かったよ。そんなに怒るなよ」  「怒るわ! さんざん馬鹿にしやがって!」  「馬鹿にしたわけじゃねえんだ」  「何を今さら――」  「本当だ。あたしは恋人も友達も一生作らないつもりでいたけど、おまえのことは友達だと思ってる」  「そりゃどうも」  そういえば菫が学校の外で誰かと会ってるの見たことないな。笙子たちと教室で仲良くしてるように見えるけど、菫は本当の自分を隠して上品な言葉で上品に振る舞ってあくまでクラスメートとしてうわべだけのつきあいをしてるだけだ。  友達か。片想いの相手から友達として認められた。それで満足するのは切ないけど、それ以上を望むほどおれはうぬぼれてもいない。  「好きじゃない相手と愛のないセックスのできるやつ。本当はそういうやつと友達になりたかった」  「なんで」  「いっしょにいて苦痛じゃないから。あたしはあんたといると、ときどきみじめになる」  「それってどういう――」  「もうこの話は終わりだ」  菫はおれの話を乱暴に遮って、さっきのおれの言葉をそのまま返された。それってつまり菫が〈好きじゃない相手と愛のないセックス〉をしてきたってことか。援交か。それしか思い浮かばない。おそらく過去。現在進行形の話ではあるまい。  「話したくないならおれもそのことはもう話さない。ただ一言言わせてくれ。おれはおまえの過去なんていっさい気にしないから、これからも友達でいさせてくれ」  「もちろん。というか高畑のくせにかっこいいこと言うんじゃねえよ!」  いつもの菫に戻っておれは思いきり頭をはたかれた。これでいい。菫もおれも二人の関係もずっとこのままでいいって心から思ったんだ。
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