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「高畑君、いっしょにお弁当を食べましょう」
そう言ってきたのはもちろんクラス委員長の早川笙子。片手に一つずつかわいい柄の布に包まれた弁当箱を持ってる。
「なんで」
「いつも一人で食べてるから」
「ぼっちなおれに同情してんの?」
「違うよ。私はただ一人で苦しむあなたを救いたいだけ」
自分が救う方でおれが救われる方ということは、おれを下に見て同情してるってことじゃないのだろうか? めんどくさいからいちいち言わないけどさ。
「それにいつも購買の菓子パンばかり食べてるから健康によくないよ。口に合うか分からないけどあなたにもお弁当を作ってきたんだ」
笙子のはるか背後にはいつも笙子といっしょにいる女子たちが寄り集まって、心配そうに笙子を見つめている。それより、心配顔の女子たちにまじって菫の顔もある。笙子で童貞を捨てろとか言ってたくせに。このエセ天使が!
心配そうに見ているだけで誰もこっちには来ない。たぶんあらかじめ今日からこうすると聞かされていたのだろう。
「ごめん。明日から私は高畑桂君といっしょに食べるから」
「なんで」
「みんな彼のこと怖いといって避けるけど、みんなが思うほど悪い人には見えない。話せばきっと分かってくれるよ」
「やめときなよ。何されるか分かんないよ」
「なんかあったら慰めてね」
こんなところか。見なくても分かる。
若王子剣正は菫に半殺しにされて十日入院した。若王子は教師にも警察にも菫にやられたとは口を割らなかった。通りがかりの暴漢にやられたという嘘で押し通した。生徒たちはみなおれがやったと思い込んでいる。あれから若王子もあからさまにおれを避けている。同級生だけでなく上級生もみなおれが通ると道を空ける。行き帰りのスクールバスも昼の購買もいつもおれだけは並ばないし待つこともない。肩が触れると向こうから謝ってくるくらいだ。
「無駄にしたら悪いからいっしょに食うか」
「ほんとに? ありがとう、高畑君」
ダメならまた明日も、それでもダメならまた次の日も、というダメもとで誘っていたのだろう。緊張していた笙子の顔が一瞬でぱあっと明るくなった。
今日一日だけだ。おまえなんかがおれを救うなんて十年早いということを分からせる。明日からはまたいつも通りになる。おれはぼっちで、笙子は女子グループで食べる。そうなるのが一番いい。
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