第四章 ズル休み日和

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 おれたちは教室を出た。廊下ですれ違う連中がみな何か言いたそうに顔をしかめている。教師でさえ言うことを聞かせられない金髪ピアスの不良の後ろを、弁当箱を二つ持ったメガネをかけた真面目そうな女子が歩いてついていく。おれが無理やり自分の分の弁当まで作らせて、いいようにパシリに使ってるようにしか見えないわけだ。それなのに、誰もおれに意見しようとしない。正義は死んだんだなと自分のことを棚に上げて思った。  校舎の屋上に来た。いるのはおれと笙子の二人きり。正確にいうと少しワルそうな上級生の男子が五人ほど先に来てたむろしていたが、おれの顔を見るなりそそくさと出て行った。たぶん明日からもここには来ないだろう。  フェンス越しにバカみたいに澄んだ五月の青空。こんな日に一日教室で勉強してるだけなんてもったいなさすぎると思えてしまう。でも、そんな恋人同士みたいな会話を笙子とする気はない。  「こんな晴れた日は学校をさぼって海か山にでも行きたいよね」  思うところは笙子も同じだったようだ。真面目な笙子の口から〈学校をさぼって海か山にでも行きたい〉なんてセリフが出てくるとは夢にも思わなかったけど。  笙子のくれた弁当のおかずは卵焼きに肉団子にポテトサラダ。たいていの男子が好きそうなものばかりで、しかもおいしかった。ごはんもグリーンピースの豆ごはん。教室じゃなくてよかった。確かにおいしいが、こんなかわいい見た目の弁当を二人並んで食べてるところを菫に写真に撮られてそこら中に拡散されたら、不良としておれは終わりだ。  「明日も天気いいらしいよ。今日はもう遅いから明日学校サボろうか」  「委員長の親が心配するんじゃないか」  「大丈夫。サボったってバレなければいいだけだし」  「そんなにうまくいくか……」  なんだか笙子の方が不良みたいだ。だからといって、学校をサボりたくないとは不良として死んでも言うべきではないと思った。  「サボってどこに行きたいんだ?」  「海!」  笙子が即答した。否定する理由が思い浮かばず、明日おれたちは海に行くことに決まった。
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