Mission 1 最悪の再会

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「食べられないんだから貰わなきゃいいのに」 「お前は一度もくれなかったよな」 「だって食べないじゃない」 「食ったよ」 「え?」 「お前のなら、食ったよ」  急に真顔で圭に見つめられて、私は彼から目を離せなくなった。  どういう……意味……?   「なん――」  ジリリリリリ……。  突然、非常ベルのような音がして、圭がポケットからスマホを取り出した。ボタンを押して、音を消す。着信相手の表示を見て、圭が私を見た。  ああ……。  私は圭から目を逸らした。 「彼女? 出たら?」  圭は女をきらしたことがない。だから、圭に誘われる度に私は言った。 『二号にはならない』 「もしもし」と、圭が電話に出た。 「何?」  圭は店を出る素振りもなく、グラスを片手に話し始めた。 「いや、無理。……うん、無理」  こいつ、彼女に随分そっけないな……。 「てか、もう会わないから」  は――? 「いや、別れるって言ってんの」  ここで別れ話? 「好きな女がいるから」  思わず圭を見ると、彼も私を見ていた。 「本気で好きな女がいるから、お前とはもう会わない」  そう言うと、圭はスマホの電源を切った。 「これで二号じゃない」 「は……っ?」 「お前だけだ」 「なに言って――」  真っ直ぐに私を見る圭の唇が微かに動いた。上の前歯で下唇を噛む。  この癖……。  圭は子供の頃から緊張すると下唇を噛む癖があった。自信家で意地っ張りで、家族の前でも弱さを見せない圭の、サイン。きっと、私しか知らない。  どうして――。 「伊織ちゃん、何飲んでるの?」  呼ばれて、私はやっと圭から目を逸らせた。 「こっち、おいでぇー」  若葉さんに呼ばれて、私はグラスを持って立ち上がった。 「伊織ちゃん、顔真っ赤だよ?」 「これ……ちょっときつくて……」  顔だけじゃない。体温が五度は上がったと思う。 『お前だけだ――』  耳鳴りのように、圭の声がこびりついて離れない。  グラスを持つ手が震えて、私は落とさないようにギュッと握りしめた。  圭は私の心をかき乱す。だから、会いたくなかった。  最悪だ――。  よりによって、こんな状況(とき)に――。
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