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休日のビルは社員証なしには入れない。
綾香さんが社長室を出て行った。
五分ほどで、綾香さんが笠原さんと一緒に戻ってきた。二人の手には買い物袋が二つ。
「木島から陣中見舞だそうよ」と言って、綾香さんが袋を持ち上げて見せた。
「陣中見舞い!?」
「『今夜も徹夜させてしまうかもしれないから』だそうです」
今日の笠原さんは眼鏡をしていなかった。髪はいつも通り後ろで束ねているが、淡い赤のシュシュをつけていた。
昨夜とは別人のように、表情が明るかった。
それだけではない。
彼女の左手の薬指には指輪がはめられていた。
「腹、減ってたんです」
俺は笠原さんと綾香さんの手から袋を奪い、中を物色した。
「いただきます」
俺は袋の中身を、打ち合わせテーブルの上に広げた。
弁当やおにぎり、サンドイッチ、パン、サラダ、総菜、飲み物。
「古賀さんに渡すように、木島から預かりました」と言って、笠原さんがUSBメモリを差し出した。
「それを見てもらえたら、木島が自首した理由がわかるそうです」
伊織はすぐさまノートパソコンにメモリを挿した。何か思うことがあったのか、自分のノートパソコンを持って来ていた。
「俺も、貰うかな」
蒼さんが、俺の正面に座り、缶コーヒーを開ける。俺は五目おにぎりを頬張った。
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