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蒼さんが紅茶のペットボトルの口を開けて、咲さんに手渡した。
「情報を盗まれていたことが公になったら、笑いものになるのはSIINAだろ」
紳士だ、と思った。
俺は伊織に缶を渡しただけ。
自己嫌悪に陥るのは帰ってからにしよう、とため息を我慢した。
「こちらから公表してはどうでしょう」と、蓮さんが言った。
「こちらから?」
「はい。全ては我々の計画だったと公表するんです。SIINAは情報漏洩に気がつき、以前から業務提携の協議を進めていたT&N開発の協力を得て、犯人の特定と証拠を集めた」
蓮さんの言葉を、蒼さんが繋ぐ。
「そして、追い詰められた犯人は自首。事件の公表に至った」
蓮さんが頷く。
「事件と業務提携は全く別物だが、それによって我々の結束は固まったと印象付けられたら、好感を得られますね」
恐れ入る。
二人とも俺と五つ・六つしか違わないのに、まるで雲の上の人だ。
「笠原さんは、それでいいの?」
綾香さんが聞いた。
「事件を公表してしまったら、木島は犯罪者になってしまうわ」
伊織も同じことを心配しているのだろう。さっきから口を開こうとしない。
「それは……大丈夫です」
笠原さんが穏やかに微笑んだ。
「木島がそれを望むのなら、私は待つだけですから」
ちょっと、相当恥ずかしい言い方をすれば、俺は笠原さんが聖母マリアのように見えた。
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