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Mission 4 疑惑
「対象のプロフィールはメールした通りだ。彼女の職歴を調べて欲しい」
『了解。一週間以内にまた連絡する』
「頼むよ」
俺はネクタイを緩めてソファに身体を投げ出した。
本当はこんなことはしたくない。
昨日、俺は資料室から出て来る伊織を見た。正確には、見張っていた。
伊織は廊下を見回してから持っていた資料を落とした。わざと。それから、腕時計を見ていた。アラームが鳴り、伊織は時計から目を離した。
アラームが鳴るまでの時間を計っていたように見えた。いや、そうとしか見えなかった。
なんであんなこと……。
本棚の時計が二十二時四十分を表示していた。
伊織の奴、まだ帰ってないのかよ。
飲み会の席でのノリとはいえ、伊織が合コンに行くなんて信じられなかった。
父親が何度も結婚と離婚を繰り返しているせいか、伊織は男女の愛を信じていない。
『ずっとなんて……信じられない』
いつだったか、伊織がそう言った。
『おじさんだって結婚する時から離婚を考えてるわけじゃないだろ。結果的にそうなるってだけで』
『振り回される方の身にもなってよ』
『お前だって好きな男が出来たら結婚するだろ』
『しない! 私は好きだの愛してるだの、信じない』
信じない……か――。
初めて伊織を抱いた日、好きだと言いそうになった。けれど、伊織はそれを望んでない気がした。いや、好きだと言われることに恐怖すらあったと思う。
伊織も俺と同じ気持ちなのはわかっていた。
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