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伊織は気持ちのない男に抱かれるような女じゃない。それに、伊織にとって俺が初めての男だった。気持ちを言葉にしなくても、お互いの気持ちを信じられたら、それでいいと思っていた。
けれど、伊織は俺に黙って東京の大学を受験し、俺の前から去った。
大学に入ってからも、伊織は時々帰って来て、俺たちはセックスをした。けれど、相変わらず気持ちを口には出さなかったし、次に会う約束もなかった。だから、四年間で丸一年会わない時もあったし、会わない間に他の女と付き合ったりした。
それでも、伊織はずっと俺の心に住み続けていた。
伊織と最後に会ったのは四年前。大学の卒業式の一週間後だった。
スマホが鈍い音を立てて震えながら、テーブルの上で動きだした。
「もしもし?」
俺は相手も確認せずに電話に出た。伊織だと思った。
『ただいま』
やはり相手は伊織。
「おせぇよ」と言いながら、俺は時計を見た。
二十二時五十八分。
「二次会、行ったな?」
『うん。女子会しようってことになって』
「合コンの二次会が女子会?」
電話越しに、伊織が手を洗う音やクローゼットを開ける音が聞こえた。
「合コンはハズレか?」
『いい人たちだったよ? けど、誰も本気で出会いを求めてないからねぇ』
ピッピッと何かのスイッチを押す音がする。多分、風呂のお湯。
「お前以外は婚活してんじゃないのかよ?」
『合コンに行くから、必ずしも婚活してるってわけじゃないのよ』
「なんだ? それ……」
『疲れたからお風呂入って寝るね。おやすみ』
「あ……ああ。おやすみ」
半ば強引に会話を終わらせられた。
何だよ……。
電話、待ってたのに……。
俺は乱暴にスマホをベッドの上に放り投げると、スーツを脱いだ。
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