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金曜の夜。
俺が退社する時、伊織の姿は既になかった。
織田さんから送られてきた地図の店には行ったことがあった。T&N開発の同僚と会う危険を考えたが、通された席はレジからもトイレからも離れた奥の席だった。
「お疲れ様です」
最後に到着した俺は、空いている柴田さんの隣に座った。正面には織田さん。
すぐに店員がビールを運んできた。
「じゃ、お疲れさまでしたぁ」
「お疲れさま」
乾杯すると、テーブルいっぱいに料理が運ばれてきた。
「会社には慣れた?」
女性たちが料理を取り分けていると、柴田さんが言った。
「はい」
「経理のことは詳しくないけど、どこの会社でもあまり違いない?」
「そうですね。専門的な品目の分類にちょっと手こずってますけど」
俺は織田さんから料理を受け取り、礼を言った。皿を受け取る時に彼女の指が俺の手をくすぐったことには気づかない振りをした。
「メディアと服飾じゃ扱うものがまるで違うしね」
「はい。柴田さんはSIINAで長いんですか?」
「四年くらいかな? 中途だから松江さんたちとほぼ同期なんだよ」
「柴田さん、以前はSELFデザインにいたんですよ!」と、織田さんが言った。
「すごいですね。大手じゃないですか」
SELFデザインといえば、一部上場企業で四年ほど前に若くて美人の女性が社長に就任したことでメディアが大きく報道したことがあった。
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