Mission 5 探り合い

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Mission 5 探り合い

 私は蓮兄から鍵を受け取ると、社長室を出た。向かう先は資料室。 「忙しそうだな、社長の手伝い」  背後から声を掛けられ、私は足を止めて振り返った。 「お疲れさま」と言って、私は口角を少し上げた。 「資料室か?」 「芹沢さんは?」 「俺も資料室に用があってさ」と言った圭の手に、鍵はない。 「お先にどうぞ?」  私は壁側に一歩寄り、道を譲った。 「一緒だと不都合でもあるんですか? 古賀さん」  圭はニヤリと笑った。  週末以来、仕事中でもよく圭と目が合うようになった。  私が圭をよく見ているから。  そして、圭が私をよく見ているから。  けれど、それは『見つめる』という甘い表現は適切ではなく、『監視する』に近い視線。  お互いに、お互いの秘密を暴くべく、行動を注視している。  土曜日、圭に自分の正体を明かしてしまおうかと、思った。  咲さんには許可を得ていたし、圭を騙し続ける自信もないから。  だけど、圭の秘密がそれを妨げた。 「で? 本当は何を調べてるんだ?」  資料室に入るなり、圭が言った。 「だから、社長の手伝いで過去のデータを整理してるの」と言いながら、私はPCの電源を入れる。  私は月曜日から社長室か資料室に籠っていた。名目は、社長の手伝い。実際は蓮兄が私の手伝いをしていた。  互いに秘密があるとわかってから、圭は毎日同じ質問をして、私は毎日同じ返事をした。 「伊織に頼みがあるんだけど」  圭は棚の奥から言った。 「何?」 「これのロック外してくんない?」と言って、私の前にディスクを置いた。  ケースには『人事』のシール。 「出来るだろ? お前なら、簡単に」 「何を――」
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