2187人が本棚に入れています
本棚に追加
/400ページ
資料室の使用は、勤務時間内と決められている。蓮兄は何点かの理由を挙げたけれど、一番重要なのは『システムのバックアップ』だった。
SHIINAに導入されているセキュリティシステムは、十二時から十三時までと二十三時から二十四時まで、資料室のPCを媒体としてネットワーク上の全データのバックアップを保存する。だから、その時間帯はPCの使用を中断しなければならない。
私は、その『空白の時間』を疑っていた。
確かに、定期的なバックアップやメンテナンスは必要だけれど、毎日一時間ずつ二回というのは長くて多い。けれど、知識のない人にしてみれば、そんなものかと思うのかもしれない。
私はSHIINAのサイバーセキュリティシステムの導入の際、蓮兄に頼まれて発注企業の決定に携わった。システムのデモプログラムをテストし、評価したのだ。
私がテストしたプログラムに、一日二回のバックアップとメンテナンスなど組み込まれていなかった。
「圭、そろそろお昼だから戻って」
私はディスプレイの右下に表示されている時刻を見て、言った。圭は左手の腕時計を見る。
十一時五十分。
圭は私がPCを操作する姿を黙って眺めていた。四十分も。それも、ディスプレイを覗くわけでもなく、正面からじっと私を見ていた。何度かデスクに戻るように言ったけれど、圭は無視した。
「一緒に食いに行こう」
「嫌」と、私はディスプレイから目を離さずに言った。
「飯食うくらいいいだろ。同僚なんだから」
「お弁当、持って来てるから」
「俺にも作ってよ」
「嫌」
「それにしても、はえーな」
無意識に、キーボードを叩く指が速度を上げていた。私は思わずキーボードから手を離した。
「終わった?」と、圭が笑った。
「飯、行こうぜ」
「行かないってば」
「ほら、もう十二時だ。出ないと怒られるぞ」
圭が座っていた椅子を元の場所に戻し、腰を伸ばした。
最初のコメントを投稿しよう!