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私はPCの前に座り直しす。
「どうなってるんだ?」
「敵の目的がわかると思う」
「俺が聞いてわかる話か?」
私は少し考えて、腹を括った。
「さっき、このPC、正確にはこのPCを介してSHIINAのネットワークが攻撃されたの」
「クラッキング? データを盗まれたってことか?」
「盗まれたか……書き換えられたか」
正常に再起動した。私はUSBメモリの情報を呼びだす。
「書き換え?」
「そう。二年前の報告書の数字の違いをどう思った?」
「どうって……」と言って、圭は棚から問題の報告書とそのデータを持って、隣のデスクに座った。
報告書を開く。
「こんな状況じゃなきゃ、入力ミスで済まされるだろうな」
「日付を見て」
「日付……?」と言いながら、圭はパラパラとページをめくった。
「この月だけ作成日が早い」
「そう。SHIINAの月次報告書の作成は毎月三日から五日の間に行われる。なのに、その月だけは一日に作成されているわ。理由は、作成者がその月の三日から十日まで有休をとっていたから」
これは、二日前にわかったことだった。
「作成者は秋山さん。彼女は報告書を作成した後で結婚式と新婚旅行の為に有休に入ったそうよ」
部屋の外で女性の話し声が聞こえる。多分、三浦さん。昼休憩から戻ってきたのだろう。
ランチを食べ損ねたな……。
「つまり、クラッキング犯は秋山さんがいつもより早く報告書を仕上げていることを知らずに、いつもの日時にデータを書き換えた?」
「そういうこと」
「犯人はSHIINAの業務工程を知っている人間か? いや、そんなのは少し調べればわかるか……?」
不思議な気分。
圭との付き合いは長いけれど、いつも互いに踏み込めない、踏み込まない一線があった。受験する大学も、就職する会社も知らなかったくらい。
互いに素直になれるのは、ベッドの中でだけ。それでも、大事な言葉は封印したままだった。
圭と一緒に仕事をする日が来るなんて……。
「そもそも犯人の目的はなんだ? 二年前のデータに関して言えば、仕入れ値が書き換えられているから――」
「書き換えられていたのは仕入れ値だけじゃないの」
「え?」
「その月の報告書とディスクのデータの数字を照合したら、他に三か所違いを見つけたわ。どれも服飾部のデータ」と言いながら、私は圭の手から報告書を取り上げ、問題のページを開く。
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