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「ここの入荷数と……この在庫数……そして、この交際費」
私は昨日までに調べた内容を、圭に詳しく説明した。
仕入れ値と入荷数、交際費は増やされていて、在庫数は減らされていたこと。報告書は、ファイルに閉じられた後は滅多に誰も手に取らないこと。
そこまで話して、時間切れとなった。
十三時になり、圭はデスクに戻らなければならなくなった。
「今夜、泊まる準備して来いよ!」
資料室を出る時、圭が言った。私は間髪入れずに返事をした。
「あ、無理」
「はぁ?」
「だって、これの解析しなきゃ」と言って、USBメモリを見せる。
圭はドアノブに手を掛けたまま、苦い顔をして言った。
「じゃあ、俺が行く」
「ダメ!」
「おま――っ。こんな大事な話、週明けまで持ち越せるかよ!」
「でも! 私の部屋はダメ」
「社長が来るから――?」
圭の言葉がすぐには理解できなかった。
「え……?」
「いや、何でもない」と言って、圭は無表情で目を逸らした。
私の心臓が大きく、大きく揺れた。
なんか……これは――。
「デスクに戻るわ」
これは、ダメ――!
このまま圭を行かせてはダメだと、わかる。私は咄嗟に彼の背中に飛びついた。
「待って!」
「なに」
背中越しに、圭の低い声が頭に響く。
「なんで社長が出て来るの?」
「…………」
圭は基本的に何でもはっきりと言葉にする。その圭が口ごもるのは、珍しい。
「圭!」
「――親しいんだろっ? ホテルの部屋で過ごすくらい」
圭の鼓動が大きく早くなる。
ホテル……?
「なん……で――」
「お前が二股なんて器用なことが出来るとは思ってねぇよ。けど、気になんだろ。他人と深く関わるのを嫌うお前が、親しくしてる相手とか……」
私はゆっくりと圭から身体を離した。
「妬いて……るの……?」
「別に」
圭は振り返らずに出て行った。
私は顔がだらしなくにやけてしまうのを止められなかった。
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