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終業時間間際。
私は圭にメッセージを送った。
『今夜はカレーです。
二十時、○○駅で待ってる』
圭からの返信はなかった。
既読にはなっているから、来るはず。
私は急いで家に帰って米を研ぎ、カレーとサラダを作り、部屋を片付けた。この部屋に蓮兄と咲さん以外の人を入れたことはない。
思えば、実家の私の部屋に圭を入れたこともなかった。
『惚れた女』
午後の仕事中も圭の言葉が、何度となく私の動きを止めた。
ずっと避けてきた言葉が嬉しくてたまらない。
「ふふふ……」
自分の不気味な笑い声に、恥ずかしくなる。
待ち合わせの十五分前に部屋を出ようとした時、インターホンが鳴った。モニターを見て、目を疑った。
なんで圭と……蓮兄が……。
モニター越しにも、圭が相当不機嫌なことはわかった。
「どう……ぞ」と言いながら、私はオートロックを解除した。
蓮兄――!
私はため息をつきながら、カレー用の皿を三枚、鍋の横に置いた。
いつもは部屋のインターホンも鳴らす蓮兄が、今日に限って鳴らさずにドアを開けた。
「お、カレー」
我が物顔で部屋に上がる蓮兄の後ろで、圭が私を睨んでいる。
「芹沢、上がれよ」と言いながら、蓮兄が持っているビニール袋を私に手渡す。
中には缶ビール。
「お邪魔します……」
蓮兄には昼間、圭に私と蓮兄が兄妹であることを話すと、言っておいた。蓮兄は少し面白くなさそうだった。
とはいえ、まさかこんな子供染みたことをするなんて――!
「どうして二人が一緒にいるの?」
「駅で会ったんだよ」と言って、蓮兄は脱いだジャケットを私に渡す。
「伊織と待ち合わせてるって言うから、一緒に来た」
これじゃ、どこから見ても恋人。蓮兄はあからさまに圭を挑発している。
蓮兄のことは好きだけれど、さすがにムッとした。
「違う。私が呼んだのは圭だけなんだけど?」
「なんで? いつもはいきなり来ても何も言わないのに」
蓮兄もこの部屋の不穏な空気に気付いていて、楽しんでいるようだった。
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