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同じ基データを使っているなら、他にも数字の違う資料があるかもしれない。
私はその場でファイルを開いた。
「どうしてSHIINAに入った?」
「社長に誘われたの」
「ふぅん……」
数字の違いは見つからないが、報告書の作成日時が気になった。どの報告書も月末日に作成されている。なのに、さっきの報告書だけ二日早かった。
データが改ざんされていると仮定して、あの報告書だけは予定外に早く作成されてしまったから数字が変わった……?
突然、背後に気配を感じて、私はビクッと肩をすくめた。圭が頭の上からファイルを覗いていた。
「びっくりさせないでよ……」
「集中しすぎなんだよ」
私はファイルを閉じて、棚に戻した。
「そんなに複雑なのか? その年度のデータ」
「え……?」
背後から圭の両腕が伸びてきて、棚に掌を押し付けた。私は棚と圭に挟まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「な……なに?」
「んーーー? 壁ドン? 違う、棚ドン」
耳元に圭の息がかかり、鼓動が速度を上げた。
「なんで?」
「……なんとなく?」
圭は昔から、私をからかう。
からかわれているだけだとわかっているのに、動揺してしまう自分が情けなかった。
いつまでも純情な私じゃないんだから!
「離れて」
私が強い口調で言うと、圭の手が引っ込んだ。と、同時に、背筋が伸びた。
「あんなに集中して、肩凝らね?」
圭の両手が私の肩に触れる。指先に力が込められる。
「やぁん!」
甲高い自分の声に驚いた。慌てて手で口を塞ぐ。
圭も驚いたようで、私の肩から手を離した。
「なんつー声出すんだよ」
「肩、弱いの知ってるくせに――」と、言いかけて、私は口を閉じた。
『肩、弱いんだ――』
初めてシた時の、圭の熱っぽい視線を思い出し、私の身体は火照りだした。
「うん、知ってる……」
圭の腕が私の腰に触れる。
「ここも弱いんだよな」
「ん――っ」
私は咄嗟に唇を噛んだ。
「あとは――」
圭の手が私の内股に下がり、首筋に彼の唇の温もりを感じた。
「やめて!」
私は慌てて圭を突き飛ばした。
「ふざけすぎっ!」
私は圭を思いきり睨みつけた。動揺を悟られないように。
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