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金曜日。
秋山さんの送別会と、私と圭の歓迎会が催された。
「ホント、古賀さんが来てくれて良かったわ」と、秋山さんは上機嫌でビールを飲んでいた。
「しかも即戦力!」
「ホントよね。五日で完璧に引継ぎを終わらせるとは思ってなかったわ」と、西山さんも頷く。
「いえ、そんな……」
「前は派遣だったって? データ入力とか? タイピングが早くて正確で助かるよ」と、野々村さん。
そうだ……。
程よく手を抜かなきゃ、逆に不自然なんじゃ……。
『業務は通常の三倍は時間をかけてね。一分間で五百字も入力しちゃダメよ』
咲さんにもそう言われていたのに、集中するとついつい指が動いてしまう。
「秋山さん、これまでありがとう」
蓮兄がビールのピッチャーを持って秋山さんに声をかけた。秋山さんの隣に座っていた西山さんが、自分のグラスを持って私の隣に移動する。
「こちらこそお世話になりました」
秋山さんは蓮兄がSHIINAを立ち上げた時からの社員で、極秘情報売買に関わっている疑いはなかった。彼女は転勤になったご主人について行って、妊活を始めるのだという。
「いいなぁ、秋山さん。幸せそう……」
西岡さんがポツリと言った。
「古賀ちゃんは彼氏、いるの?」
「えっ?」
「いないなら、今度一緒に合コン行こう」
蓮兄が鋭い目つきで私を見た。
『合コンなんて、身体目的の男ばっかりだから行くな』と、蓮兄はよく言っている。
けれど、SHIINAに来る前に咲さんには『社内の人間と良好な関係を築くためにも、ランチや合コンに積極的に参加して』と言われた。
合コンで良好な関係が築けるのだろうか……?
「ぜひ、ご一緒させてください」
私は西山さんに言った。
「奈津! 次の合コンは古賀ちゃんも参加でー!」
西山さんが大きな声で隣のテーブルの三浦さんに言う。
「あ、古賀さんもフリー? うん、行こう行こう!」と、三浦さんが大きな声で返事をする。
三浦さんの隣の圭と目が合った。不機嫌そうにこちらを見ている。
資料室でキスされてから四日。二人きりになることはなかった。
「彼氏が欲しいってより、合コンそのものを楽しんでないか?」
服飾デザイン部の部長・島田さんがピッチャーを持って私の隣に座った。
「どーも。服飾の島田です」
私は人事のデータで彼を見知っているけれど、実際に顔を合わせて言葉を交わすのは初めてだった。
「古賀です」
島田さんは私のグラスにビールを注いだ。
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