Mission 2 アプローチ

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 ちょうどその頃、俺の母さんが働きだして、同じく両親が共働きの伊織も、家に一人でいることが多かった。俺は勝手気ままに友達を呼んで遊んだり、夜遅くまで遊び歩いたりしていた。伊織とは顔を合わせても挨拶をする程度で、以前のように一緒にいることはなかった。  けれど、あの日を境に、関係が変わった。  父さんと母さんが出張中、俺は熱を出した。俺自身より先に気がついたのは、伊織だった。  一人で心細かった俺に、伊織は飯を作って、薬を飲ませてくれた。 『大丈夫、大丈夫……』  高熱でうなされる俺に、伊織はそう言い続けた。  俺は一人っ子で、専業主婦の母さんに可愛がられて育った。家に帰れば母さんがいて、温かいご飯があって、風呂が沸いている。そんな生活が当たり前だったから、母さんが働きだして、俺は寂しかった。けれど、中学生にもなってそんなことは言えなくて、ずっと強がっていた。その俺の強がりを、伊織は見抜いていた。  俺が熱を出した日から、俺が一人の日は伊織と飯を食うようになった。  俺は友達を家に呼ばなくなり、伊織と過ごす時間を大切にした。一緒に宿題をして、飯を食って、テレビを見た。  一年半後、再び伊織の父親が離婚するまで。
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