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授業の始まった職員室はほとんど人がいない。机の上に教材の一式を置き、ひき出しを探る。
もう、あと数本しか残っていない煙草を取り出して、職員室の奥、生徒からは死角になった扉を開ける。すでに紫煙をくゆらせている人の姿があった。
「華村先生も一服ですか」
背の高いすらっとした白衣姿の教員が、薄い唇に煙草を挟んだまま笑いかける。
「ええ、冴島先生もですか」
答えて笑うと、冴島は少し遠くを見るように朔良を見た。
「何か?」
「いえ」
歯に物が挟まったような曖昧な濁し方で、また冴島が笑う。
同学年の担当だから、職員室の席も隣同士だ。でも、だからと言って特に何かした記憶もない。
「学校には慣れましたか?先生」
このにっこり笑う大人の余裕が妄想心を駆り立てる。
また、発作のように擡げてきてしまう。
煙草を無造作に揉み消し、壁際に生徒を追い詰める。「わかっていてこんなところまでついてきたのか」なんて低く甘い声で唸り、壁ドン。
口元に小さな黒子。
自分も同じような場所に黒子があるが、自分より分かりにくい位置で分かりにくいサイズだ。
それが迫って、唇が覆う。
「朔良先生?」
「え?」
―――って、近!!!
追い詰められてるのは朔良自身。眼前に冴島の顔。
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