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むしろ自分の網膜に腐ィルターが搭載されてしまった。
ーーーホント凄いと思うわ。あの熱。
彼女らの中では『K』と『私』は『娘さん』をめぐって三角関係を形成するのではなく『K』と『娘さん』が『私』をめぐって熾烈な三角関係を形成した挙句、『K』は自害することで『私』の中に居座り続けるという病み設定。
溺死したカムパ○ルラは初め思いを寄せるジョ○ンニを道連れにしようとしたがその愛ゆえに自分だけ死者の国へ向かうという悲恋設定。
自分がそんなものに興味があるなんて思っていていなかったから余計。
だって、夏/目/漱/石から宮/沢/賢/治から古典文学までありとあらゆるものが朔良の中で違った輝きを放ち始めた。解釈ひとつでここまで変貌するとは思ってもいなかった。そんな自由な発想に触れたいと思ってしまった。
それでも端から卒論が三島だったあたりに、自分にも片鱗があったんだろうけど。
「……つまり、西洋では陰鬱ともとられがちな『影』に日本人は古来から魅力を感じていたわけだ」
1年生の授業で説明文を指導しながら、脳裏に浮かぶのは行燈の暗い光源の中で淫靡に絡み合う二体の裸体。白いチョークで黒板に板書しながら白濁の散るさまを妄想する。
まさかの教材妄想。歴極めてれば、なんだって妄想の餌食。
NLじゃここまで燃えないんだ。男同士っていう変な禁色めいた感じが妄想に拍車をかける。
「華村先生、そこ、字が間違ってます」
その結果、1年生に誤字指摘されちゃう。
「あ、ごめん、うっかり」
見え透いた嘘で笑いかけてごまかす。
指摘した生徒はすっと目をそらす。
ーーーそういえばこの間もこいつに指摘されたな。
なんて、着任からひと月くらいの副担任じゃこんな認識。
ーーー逃げる視線を無理やり合わされていたされちゃうっていうのもネタとしてはおいしいな。
こんな風にまったく意に介さないのも問題だと思う。
でも、妄想するだけなら自由だし、実行に移す気はさらさらないから問題ない。
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