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(元)視線合わない系男子。
100メートルダッシュができそうな廊下を自分より短いコンパスが、せわしなく動く。
いくら授業中とはいえ、手をつなぎっぱなしなのは何となく気まずい。
「えーっと、頭痛君」
「櫻井です」
どう考えてもそんな名前はいないはずなのに何で口をついてしまったのか。大失態だとばかりに朔良は空いた方の手で額を覆った。
「あー、ごめん、櫻井」
「なんですか」
こちらを振り向きもせず、学ランの後ろ姿が廊下を進む。
目的地が定まっているように確かな足取りで脇目も振らずに進んでいく。進んでいくが。
「こっち、保健室じゃないよね」
一応ひと月いれば大体の配置は判る。保健室は反対方向のはずだ。
ぴたと櫻井は足を止めて朔良を見た。
「そうですがなにか?」
利発そうな額の下で不機嫌な表情が朔良を見ていた。
「わかってるんだ」
「判ってますよ。判っていて西館に向かってるんです」
西館に何があったか瞬時に思い出せない朔良の方が問題なのだろうか。
「でも、もうここでいいです」
「何が」
ずいと、自分より小さな体が迫ってくる。
「先生、いつもエロいこと、考えてますよね?」
単刀直入に言われてすっと背筋が伸びた。
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