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二人は気付けば目的地の駅にたどり着いていた。「じゃあ」と横山優理子は手を振って、改札口へと入っていこうとする。
僕は駅から電車には乗らない。ここからあと五分ほど歩いた場所に自宅があるので、いつもここで手を振って横山優理子と別れるのだ。
「あのさ」
「――なに?」
声を掛ける僕に、横山優理子は振り返った。川沿いの道に風が吹き、彼女の髪を揺らす。
「横山さんは、……まだ、大濱先輩のことが好きなの?」
「なにそれ?」
彼女は風に揺れる髪を押さえて、怪訝そうな顔をする。
「なにそれって……、二年の時、好きだった……って聞いたし」
「誰から?」
「……風の噂って言うか……」
横山優理子の表情は急速に曇っていった。
僕は詰まりながらも、でも、やっぱり、一度始めたその会話を止めなかった。
「誰からそんな話しを聞いたのかは知らないけれど。そんな人、私は好きなんかじゃないわよ」
彼女は毅然として言った。でも、その瞳は決して澄み切ってはいなかった。
「それに、そんなことあなたには関係ないじゃない……」
横山優理子は言いにくそうにしながらも、視線を逸らし気味に、そう呟いた。
「関係なくなんてないよ。僕は横山さんの事が好きなんだから」
気付いたら告白していた。
横山優理子は突然の展開にビックリした顔をしていた。正直なところ、僕の方もビックリしていた。自分自身でも、なんでこんなタイミングで告白しているのか良く分からなかった。でも、やっぱり、そろそろ自分の気持ちを知って欲しかったんだと思う。
その日は、その駅で別れた。彼女は恥ずかしそうにしながら「少し、考えさせて」と言っていた。僕は「うん」と頷いた。
どんな表情で頷いたのか、自分でもよくわからない。
彼女が改札を抜けた後も、しばらく僕は呆然と立っていた。しばらくして、緑の電車が南へと出発して、去っていった。
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