第三章「う」

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 日陰になった校舎裏で、彼女は俯いて泣いていた。オイオイと泣いていた訳ではない。でも、それは明らかに女の子が、悲しみ涙しているときの両肩だった。  「何かあったの?」と聞きかけて、やめた。ここで「何かあったの?」なんて聞くことは詰問に等しいんじゃないかと思った。彼女は何があったのか聞いて欲しくないかもしれないし、でも、もしかしたら聞いて欲しいのかもしれない。  でも、そうなのかそうじゃないのか見分けられる程、ぼくは、器用でも、経験豊富でもなかった。 「大丈夫?」  結局、僕がかけたのは、そんな格好もつかない言葉だった。横山優理子は少し赤くなった目を右手のブラウスの袖で拭くと 「……なんでもないから、大丈夫よ。ありがとう」  と、無理に作った笑顔を見せた。僕みたいな鈍感な男子でも、その笑顔が、彼女の精一杯の努力によるものだということが分かった。  明らかに、大丈夫じゃない彼女だけど、「なんでもないし大丈夫だ」と言いはっているのだから、「なんでもない」ように扱うべきなのだろう。「大丈夫に見えないよ?」などと詰め寄っても、彼女をより困らせるし、涙させるだけだと、そう思った。
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