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もやしをおよそ半分食べたところで麺に取り掛かる。一気に箸をどんぶりに差し込み、麺を引き出す。口で迎えに行く、くわえたまま引き上げる。すすり、口の中へ。熱い。軽い火傷を起こすが、構わない。ガム、ガム、ゴクン。ドカン、ボン、バン。ガツンと頭上にカミナリが落ちる。舌が痺れる。この瞬間にしかない味、力。レンゲでスープを掬い、口に運ぶ。バチン。鎖が弾ける音が響く。全ての思想は霧散し、この麺に全集中力が注がれる。僕は、ラーメンを食べている。じんわりと汗が額と腕に浮かんでくる。
ガシッ、ファム、ガム、ガム、ゴムン。噛んで飲み込む。強烈なうまさ。決して完璧な味ではない。こいつはまさに、冗談みたいな味。計算され、洗練され尽くした味とはお世辞にも言えない。むしろどこか単調で、しつこい。しかし、結局技術ではないのだ。麺と、スープとチャーシューといくらかの具があればラーメンは成り立ってしまう。しかし、それを強烈な快感へと向かわせるのは心なのだ。こいつには、心がある。確かに、ここに。こいつにはあらゆる生命と変わらない鼓動と欲望のリズムが存在するのだ。麺を貪りながら上面に引き上げていく。もやしはスープの下に沈んでいき、麺と残ったもやしの位置が逆転していく。世界からラーメン以外は少しずつ消失していく。
ガツガツ、バクバク、モグモグ。
勢いのままチャーシューに手をかける。中心の油分を境に箸で二つに分け、外側の油の多い方を口に入れる。柔らかく、濃い油。ンチャ。口の中は油だらけになる。甘く、深い油が口の中で溶ける。幸福感に包まれる。スープを一口飲み、油の余韻を楽しむ。
残った赤身も口に入れる。噛む、噛む。ギュッ、ギュッ。吸い込まれていたスープと肉汁が一気に染み出す。ごくん。
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