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 その口がキュッと硬く閉じて、回れ右する。三和土へと向かう後ろ姿は相変わらず媚びたような科がある。  上がってきたときのままのスニーカに足を突っ込み、踵を指で直す。玄関を開錠するとき、後ろから伸ばした腕が真中の体を挟む。真中の体が強張るのを空気で察知した。  「おや、君の方から開けてくれるとはね」  長い腕が扉を開けた先にはダークグレイのスーツを着た相川が立っていた。  真中が訝しげに小首を傾ぐ。  玄関先には黒のハイブリット車。ベンツではない。  携帯で時刻を確認しようとして3階に置いてきたことに気が付いた。  陽の傾きを見る。  20時でないことだけは確実だ。  レックは鼻から息を吐き、真中の背中を軽く押し出した。  相川は真中に道を開け、すると体を滑らせて玄関に入る。  シルバーフレームの中で透明なレンズがレックの無表情を反射していた。  メモ帳をポケットから引き出す。  相川の武骨な指が、細く尖ったレックの顎を掴む。筆記を諦めたレックの手がメモ帳を足元に落とし、文句のような乾いた音でメモ帳は開いたまま叩きつけられた。  正面から見た相川の目は冥い。  光を反射しない性質の球体が嵌め込まれているのだとレックは勝手に理解している。  造り物めいている。
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