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作業机から陶器の灰皿を差し出すと、心地よさそうにハイライトを唇に挟み込む。
かさついて肉の薄い唇にフィルタの紙が張り付くのを見た。
「面白いガキだよ、俺に金的食らわそうとした」
『喰らったんですか』
メモに走り書いて問うと、相川はその片二重でメモを見て笑う。
「喰らわそうとしたんだ、喰らってない」
からからと笑い、人の話は正しく聞きなさいよと柔らかく話す。
「見事な身のこなしだったよ」
一頻り笑った後で煙草を唇に挟み深く吸い込んで吐き出す。ソファに凭れたままで、斜め上方に視線をやる。何もないことくらいわかっていて、その視線の先を見やった。
「バラしちまうには、ちょっと惜しくてねぇ」
呟いた言葉に視線を相川に戻す。
その判断は、相川に任せる。
任されたことはないが相川が求めるなら、スナッフを撮ることもできる。
ただ、指示を待つ者の目でレックは相川の次の言葉を待った。
「あいつらが来るまで少し寝かせてもらうよ」
たっぷりと紫煙を吐き出した後で、まだ長い煙草を灰皿に押し付ける。
レックは腰をあげて作業机に戻る。背後でソファに体を横たえる気配がした。
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