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 急に興が殺がれる。もう直絶頂というところで冷水に一物を突っ込まれたような感覚で、ナニが縮んだ。撮影までには時間があることを確認する。撮影の構成を練りながら、寝汗と先走りを流すために風呂場へ身体を運んだ。  乱雑に衣服を脱ぎ、浴室でコックを捻る。シャワーの湯が人の形に流れを遮断される。足元でくるくると回りながら排水溝を流れていく。湯を受けた髪は色を濃くし、濡羽色に艶めいて、白い額に首筋に張り付いた。水滴が背中を這い、尻の割れ目に流れていく。  低い温度だと言うのに血の巡りが良くなり、ケロイド状の傷が浮き出て赤くなる。  自己治癒能力は他人より高い。  それがもって生まれたものなのか、必然的にそうなったのかはよく判らない。ただ、幼少期に受けた傷の一切が今は体が高揚しなければ浮き上がらない程度の痕になっている。引き連れた裂傷も火傷も薄く幾重にも付けられた切り傷も、熱を持った鉛玉が腹を抉ったその傷も。その一つ一つが付けられた経緯はレックの頭の中に残っている。しかしそれは記憶と言う情報でしかなく、その時に感じただろう感情は『レック』の所有物とは言えなかった。  髪と一緒に顔を洗う。  見た目に似合わない粗暴と無精だと笑われたことがある。自分の見た目に拘りはない。必要以上に目立つことのないように注意するだけで、生きるに不自由しない程度であれば充分だった。  石鹸を腕に滑らせる。胸に、腹に、下腹部に、腿に脛に。足裏を洗う前に露茎した性器を洗う。ぴりぴりと尿道口が痛んだがしたが、大したものでもない。全身に石鹸を這わせた後でシャワーで漱いだが、殆どの泡という泡は既に流されて跡形もなかった。  先刻のぴりぴりを思いだし、今回の趣向を決めた。  趣向が決まれば、必要な用意など簡単に思い浮かべることができる。頭の中のメモから『趣向』を削除し、『留守録』を引っ張り出した。  要件に添う準備を考える。  を撮影する。動画をDVDに焼く。金儲けには使わない。倉庫の指定はない。自分(レック)を指名した。つまり、スナッフではない。しかし、部屋の洗浄が必要な可能性を考えると、地下に機材を用意すべきだ。否、機材ほどの仰々しいものではなくハンディで事は足りる。
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