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 写真の顔のまま、俳優はきょろきょろと部屋の中を無遠慮に見回した。  「意外」  真っ白な部屋を見回した俳優、真中は呟いてベッドに座った。  「やっすいラブホか路地裏とかで撮るのかと思ってた」  フツーの綺麗な部屋で驚いたよ。  真中が口を開く度に無視してはならない質問と聞き逃していい言葉の羅列とを判断する。大半は聞き流しても問題ない音ばかりだが警戒を怠ると後が厄介なのは経験上心得ていた。  「レックさん、」  定点カメラをベッド再度から少し離れた位置に設置していた手を止める。  少し顔を動かして視線を投げるとベッドに座った真中は少し含みを持った顔でこちらを見た。  「あんたをヤれるの?あんたがヤるの?」  ベッドから見上げてくる目は子どものそれに似ている。  やってはならないと禁止されたことに対する好奇心と、興奮と自分すら気がつかないような罪悪感、未知への怖れ。それらを乱雑に混ぜ合わせて飲み干したような目で、真中は笑う。  レックは定常光の照度をあわせ、その手をキャスタの上に滑らせた。  あらかじめ用意していたスケッチブックを開き、油性マジックを走らせる。  『タチ役であなたが望む額が支払われることは殆どあり得ません』  「ふぅん。じゃあ、あんたが俺をヤるんだ」  スケッチブックの文字を読んだあとで真中は小さく数回頷いた。  「ちょっと緊張するかも」  わざとらしい破顔には、押し隠した不安が伺えた。
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