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 スケッチブックのページをめくり、レックはペンを走らせる。1枚書き終えてもう1ページを繰り、ペンを走らせてページを戻す。  『出演を取り消しますか』  1枚目を示すと真中の目に明らかな敵意が浮かんだ。  この年頃の人間にとって侮られたと知ることが一番の発破になることをレックは知っていた。  「止めるとは言ってない」  鼻に息を通してスケッチブックをキャスタに置く。  『違約金が発生しますが』と書いたページは無視されたまま役目を終えた。  「でも、あんたじゃヤダっていったらどうなんの」  置いたばかりのスケッチブックを再び手に取り、数枚のページを繰る。  真中は少し煩わしげに眉根を寄せた。  『一度までは変更が利きます。ただし、次回が意向に添う撮影である保証はありません。また、プレイ内容は過激に、報酬は相手俳優代を差し引いた額になります。』  無機質に打ち込まれた印刷の文字は事前に用意されていたものであることを真中に伝える。  ここに来て嫌だとごねる輩は存外に多いのかもしれない。  「ふぅん」  『どうしますか』  新しいページに書かれた文字は間違いようもなくレックの肉筆だ。  「ヤるよ。美人にヤられるのもまた一興だし、こんな仕事してるんだからテクには自信あるでしょ?」  レックの黒髪が小さく揺れた気がした。  それが空調の風に靡いたものか、レックが小首を傾いだためかは真中には判らなかった。  踵を返した素足が何の音も立てずカメラの向こう側に立つ。  『脱いでください。全部。』  空調とカメラの起動音が部屋を満たす。  「ねぇ、レックさん」  躊躇うように真中は息を吸い込んで、それから吐き出した。  「あんた、喋れないの」  レンズから顔を上げた能面は、スケッチブックを繰る。ページの随分初めの方を開いて真中に向けた。  『記録者の声は必要ない』  断ち切るようなその文字は荒く、古びて掠れていた。
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