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 もし黒須がもっと教室で目立つような存在だったらきっと女子たちは放っておかないだろう。しかし残念ながら黒須は教室の後ろの席で窓の外を一人で眺めているタイプだった。  その方が好きだと言う女子もいるかもしれないが、僕の方は高校生男子の色香には全く興味がなかった。 「なんで?」  僕は校内を歩く時に履いているサンダルのかかとを鳴らし、なるべくそっけなく応える。 「ちょっと先生に付き合ってもらいたいなって思って」 「だからどこに?」  なかなかはっきりと用件を切り出さない黒須に苛つきながら、僕はシャツの袖から覗く腕時計を見た。これから職員室に戻ってやることが山ほどあるのだ。  明日の授業の準備をしなくてはならないし進路希望調査書にも目を通さなくてはならない。今年初めて三年生の担任を受け持った僕はやることのあまりの多さに驚いていた。高校教師になったことを完全に後悔するくらいには。  だから正直、生徒との放課後のくだらない会話なんかで時間を削るのは嫌だった。  しかし黒須はそんな僕の心を見透かすように本筋とはずれたことを言った。 「先生、先週、男の人と手を繋いで歩いてませんでしたか?」  黒須の目がまるで僕の胸を穿つことを楽しむように見ている。しかし僕の疲れ切った心にはほんの少しの風が吹いただけだった。きっと表情もそれほど変わっていないだろう。 「…………」     
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