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「俺、塾の帰りに見たんです。先生が男の人と手を繋いで歩いているの。後をつけたら二人は同じ家に入っていきました」  黒須は無邪気な悪意を含んだ顔で笑っている。  人を踏みつけるような視線。上に立ったと決めつけるような笑み。誰しもが通る道。その折り返し地点を僕はいつの間に通り過ぎてしまっていたのだろうか。  昔の自分と向き合うように僕は黒須と向き合っていた。 「日曜、会ってくれるよね?」 「…………」  懐かしい感傷に多少の自暴自棄を感じながら僕は頷いていた。 「大島先生」  職員室へ入ると今度は同僚から呼び止められた。僕は密かにため息をつきながら振り返る。やっと仕事に取り掛かれると思ったのに。  話しかけてきたのは二年の英語を担当している村上だった。  女子生徒に人気がある、というか自分からしょっちゅう女子生徒にばかり話しかけている男性教師だ。僕はなぜかいつも日に焼けているニヤけた顔のこの男があまり好きじゃなかった。女子生徒の前では多少は隠していても、男同士で年の近い僕の前では生々しい性の匂いを隠さないからだ。 「先生、今日どうです? いい店見つけたんですよー。安西先生も一緒ですけど」 「…………」     
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