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わかりやすくちゃんと灰皿に吸い殻が残されている。高也のイラつきと甘い残り香でズキズキと痛み出したこめかみを押さえながらソファに座った。
「…………」
……寄り道をしてきて良かった。それだけが今日の救いだ。
僕は本当のところ煙草の匂いも好きじゃなかった。
でも奥さんの前で吸えなくなって、禁煙を宣言してしまったせいで困り果てていた高也に僕の前では吸ってもいいよと言ってしまったのだ。
僕のその一言が高也を喜ばせた。
煙草を吸って僕を抱いてシャワーを浴びて家族のいる家へと帰って行く。当たり前のように。そして僕の部屋にはいつも高也の残り香が漂う。
その匂いが僕の中に積み重なり、いつしか僕を遅効性のウイルスように蝕むようになっていた。
僕はすべてを理解した上で付き合っていたはずなのに。
一人取り残された暗い部屋の中はいつも僕を不安に駆り立てた。
愛の確認なんて今まで考えたこともなかったのに。
高也が本当は誰を愛しているかなんて。
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