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「日向」
高也の裸の胸に顔を押し当てていると名前を呼ばれ、僕は眠りに落ちる寸前で目を開けた。
まだ部屋の中は真っ闇で、重なり合った足からはさっきまでの熱が残り、淫らなぬくもりと幸福が立ちのぼっている。高也がさらに足を絡ませてきた。
「俺、もうすぐ結婚するから」
「……そう」
僕は素っ気なく答えて、また目をつぶった。
とたんに熱は消え、すべてから耳を塞ぎたくなる。夜が更け、暗闇が増すほど僕の心は弱くなる。
……いちいち教えてくれなくてもいいのに。
高也が隣にいて一緒に眠るだけ、それだけでいいのに。それ以外のことは何も聞きたくないし何も知りたくないのに。
高也には僕と知り合う前から付き合っている彼女がいて、その彼女が結婚したがっていることや、親同士も結婚させたがっていることは何度も聞かされて知っていた。高也が体の弱い彼女を気づかって別れることができないことも。
端から見れば二人はお似合いのカップルに見えるらしい。高也の話しぶりからすると二人の結婚は順調で障害はなさそうだ。
僕という存在以外は。
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