大学院生の繁忙

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「あと……。」椙田が続いて話し出す。「このスライドってパワポで作成してるんだよね? これは個人的な好みも含まれるかもしれないけれど、アニメーション機能の多用は避けたほうが良い。何が大事なことかわからなくなる」 コメントであるとわかっていながらもはっきりと言われると少し気持ちが沈み始めてきた桜。返事も小さくなる。 「つまり」柳が椙田に続き発言する。「山本くんは別に間違っているわけではないんだ。スライドに記載している情報はどれも正しいし、丁寧で良いんだ。でも、すべてをスライドに詰め込んでしまうととてつもなく量が多くなるから、本当にその発表で必要な部分を見極める能力を養う必要があるってことだよ。椙田さんのコメントもこれに関連するところがあって、洗練された情報のさらにココってとこにアニメーションを使うとより効果的になる」 桜は、不器用ながらに柳がフォローしてくれていることに気づく。 「まぁ、僕も最初はこんな感じだったかな。アニメーションは恥ずかしくて使えなかったけど。卒論発表までに一緒にたくさん練習しよう」最後に柳がわずかに微笑んだ。誰も気づいていないようだ。 桜は、あまりの出来事に一瞬思考が停止してしまったが、すぐに嬉しさがこみ上げてきて予想よりも大きな声で返事をしてしまった。    その後に、柳と椙田の発表が立て続けに行われた。正規の場ではないが、学会で発表する内容である。桜は、初めて研究発表というものを聴講した。どちらのプレゼンテーションもシンプルであり、ストーリがしっかりと構成されていて、桜はスムーズに情報を処理できた。  二人の発表を聞きながらメモを取っていた永沼が顔をあげる。 「まず、柳くんだけど。この結果の数値的収束は十分に取れているの? 特異点を含む計算だからもう少しグリッド数を大きくして、再計算したほうがいいような気がするけど。あくまで経験則だけどね」  流体などの数値計算、つまり、シミュレーションを行う際には、空間を有限個に分割する必要がある。その分割数をグリッド数やメッシュ、格子数などと言ったりする。
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