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巨大な龍が二頭、真正面から互いにブレスを吐いた。
ドラゴンブレスは二頭の中間地点で激突し、爆発し、粉塵と爆風を周囲に巻き散らかす。
周囲の観客席には安全のために不可視の魔法障壁が張られているが、それでも間近まで迫るど迫力の光景には、観客たちから歓声以外に悲鳴もあがる。
そんな観客たちに一切構わず、二頭の龍は爆風を意に介さない翼を力強く打ち、一歩も譲らぬ空中戦を展開してみせた。
炎のように赤い鱗をした紅龍。
水のように青い鱗をした蒼龍。
二頭の龍の背にはそれぞれ甲冑を着込んだ騎士が乗っていた。龍に指示を出しつつ、魔法を練る。片方の騎士が雨あられと雷の弾を撃ち出せば、もう一方の騎士はそれらを風の刃で迎撃する。
まるで花火のように魔法が飛び交い、ただの観客には美しい軌跡を、その魔法ひとつひとつの破壊力を知る者には恐ろしい戦闘力をしかと記憶させた。
ひとしきり空に戦いの軌跡を描いた後、二頭の龍は地面へと降りていく。
空中戦が一区切りして、今度は地上戦だ。龍がその発達した四肢で地面に着地すると、どれほどの重量があるのか、闘技場の地面が砕けてひび割れる。
咆哮をあげながら突進する二頭。
それが生み出す威圧感は、並の兵士なら目の前に立つことすら難しい。目の前に迫る確実な死から逃げることしかできないだろう。
その背にまたがる騎士たちも、それぞれ得意な獲物を取りだした。
かたや大剣。騎士の身の丈以上はある幅広の剣は、あらゆるすべてを押しつぶそうとしているかのようだ。
かたや騎乗槍。こちらも騎士の身の丈以上の柄を持っており、あらゆるものを穿ち貫かんと槍の先端が光っていた。
どちらも龍の背の上から攻撃出来るように作られた特注品だった。並の人間ではそれを持ち上げることも出来ないだろう。
だが、龍騎士のふたりはそれを軽々と振り回す。それくらいの身体能力がなければ龍騎士に選ばれることはない。
それもこの国最高戦力たる、蒼龍と紅龍の騎士になど、なれるはずもないのだ。
国の誇る最高の龍騎士同士が、互いに矜持をかけて激突する。
闘技場の真ん中で、激しい衝突音が轟いた。
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