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龍騎士対龍騎士。
龍と縁の深いこの国では十年に一度、『王の双翼』と呼ばれる最高位の龍騎士同士の模擬戦が行われる。
名目としては龍騎士の武力を、国内外に喧伝するためのものだ。
しかし実態は普段戦場でしかみることのできない龍騎士の戦いを安全に見られるということで、一大祭事のように扱われている。
国中から我先にと人が集まることで、商売と交流が盛んに行われていた。闘技場の中に入り切れない者たちも、王都全体の御祭り騒ぎを楽しみに来ているようなものだ。
ほとんどの者にとって、なかば娯楽と化している騎士同士の決闘であるが、本人たちにしてみれば今後十年、『王の双翼』のうちどちらが強いかが決まる戦いであり、模擬戦とはいえ気は抜けない。
特にこれという報酬があるわけではないのだが、勝利者となる名誉だけでもその後の活動に与える影響は計り知れない。
双翼、とひとまとめにされることの多い両者であるが、最高戦力ゆえに普段はむしろ別行動を取ることも多い。ゆえにいつからか龍騎士たちは互いを牽制し合い、決闘前から火花を散らすのが通例となっていた。
「今回は私たち赤の龍騎士が勝利をいただく」
「ぬかせ若造が。我ら青の龍騎士に勝とうなど十年早いわ」
その日も、龍たちが身体を休める龍舎の前で、屈強な騎士ふたりがにらみ合っていた。
ふたりは明日に控えた決戦に備えて、それぞれの騎龍の様子を見に来て、たまたまでくわしてしまった。
決戦前はどうしても互いに好戦的になり、言い争いになるのは珍しいことではなかったが、この国で最高の龍に騎乗することを許されたふたりだけに、小競り合いでもその威圧感は凄まじいものになる。
周囲には番兵や城勤めのメイドなどもいたが、息をするのも忘れて見入っている。
普段は同じ国王に仕える仲間であっても、決戦前の今はもっとも負けたくない敵同士だ。自然と言い争いの激しさも増す。止められるものなど、彼らの身分を考えれば皇帝くらいしか存在しないのだ。
だが、この国にはそんなふたりに対して制止の声をかけられる者が、もうひとりだけいた。
「お二人とも、すみません。龍舎の前で喧嘩するのは止めていただいていいですか?」
その者は龍舎の中から現れた。
その者は普通城に存在する騎士でも、貴族でも、料理人でも、召使でも、番兵でも、当然ながら王族でもなかった。
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